ところでこういう昔の話を今頃になって持ち出すのは、この種の熱病の流行は、必ずしもその国の科学の進歩程度には依らないという気がしたからである。もしそうだとしたら今後も流行する虞(おそ)れがある。特に大戦争下などにはその虞れが濃厚であるとも思われるので、予防医学的な意味で、当時の世相を顧(かえり)みておくことも無用ではなかろう。
ところが千里眼の場合には、京都帝大の精神病学主任教授今村博士や、東京帝大文科の助教授福来文学博士などが、自ら実験されて、それが事実であるという報告をされたのである。それに我が国哲学界の大権威井上哲次郎(いのうえてつじろう)博士も信用され、そういうことはあり得るという意見を発表されたのである。
こうなれば、もう一般の人々は、それを信用するより仕方がない。それでなくてもいつの世でも、世間は珍らしい話が好きであり、人間は神秘にあこがれる本性がある。それに新聞にとっては、これは絶好の題目である。燎原(りょうげん)の火の如く、千里眼が全国に拡がり、到(いた)る処に千里眼者が出現したのも無理のない話である。
千里眼のあった明治四十二、三年頃は、日本の物理学界では既に長岡半太郎(ながおかはんたろう)博士が原子構造論で世界的に有名であり、化学界では鈴木梅太郎(すずきうめたろう)博士がヴィタミンBを発見されていた頃である。決して我が国の科学が未開の状態にあったわけではない。千里眼のような事件は、その国の科学の進歩とは無関係に生じ得るものである。それは人心の焦躁(しょうそう)と無意識的ではあろうが不当な欲求との集積から生れ出る流行性の熱病である。そしてその防禦(ぼうぎょ)には、科学はそして大抵の学者もまた案外無力なものである。と言ってもそれは何も科学の価値を損ずるものでもなく、また学者の権威にさわることでもない。それは科学とは場ちがいの問題なのである。唯こういう場合に、優れた科学者の人間としての力が、その防禦に役立つことが多いということは言えるであろう。
千里眼に類似の事件は、その後も数回あった。そして今後も起り得る問題である。特に今次大戦下のような緊迫した国情の下では、「一億の熱意の迸(ほとばし)り出るところ」一つ舵(かじ)を採り損ねると、どんな大規模な千里眼事件が発展しないとも限らない。そしてそれは為政者(いせいしゃ)の力でも阻止出来ない場合も起り得るということは、歴史の示す通りである。
この種の事件が、科学技術の総力戦において、特に害毒を流す場合が多いことも十分理解されよう。しかしそういう大切な問題も、その解決乃至(ないし)予防は案外簡明である。それは各人が中学程度の科学を十分に把握し、そして着実真摯(しんし)な道を歩むのが結局一番の早道であることを忘れなければよいのである。もっとも本当はそれが一番むつかしいことなのである。
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Author:中学二年
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